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「――なんか、あったの?」
茶色い髪のイケメンさん。おまけに着ているのは名門校である高校の制服で、女の子にもてそうだな、というのが最初の印象だった。
そう、最初だ。知り合いではない。そのため一瞬自分にかけられた言葉なのかどうかわからず、戸惑った。
「空気重すぎ。……泣いてんのかと思ったじゃん」
だがその言葉で、目の前に立っているこの学生は、公園のベンチで落ち込んでいる七海をみつけて放っておくことができず声をかけてくれた、心優しい少年なのだということに気づく。
相手は見ず知らずの学生。けれど不思議と躊躇いはなく、流されるように口を開いていた。
「……聞いてくれる?」
七海は努めてなんでもない風に「大学、落ちちゃってさ」と告げた。
この距離で聞こえなかった、なんてことはないだろう。だが彼は別段気にした様子もなく「…ふぅん」と相槌を打っただけだった。
慰めもなにもない反応。だがしかし、今の七海にとってはそれが却ってありがたかった。
「その上部屋も引っ越さないといけないし、金はないし。絶対受からなきゃならなかったのに、俺なにやってんだろうって…」
そこまで言って、更に自分が情けなくなる。
――ほんと、初対面の相手になに言ってんだか。
感想に困るような話を聞かされても、彼だって迷惑だろう。反応が薄いのは、もしかしたら呆れている所為かもしれない。
「…ごめん。こんな話聞かされても困るよな」と苦笑をこぼしながら彼を見やれば、なぜか数秒ほど、目が合った。
「…別に、俺が聞いたんだし。…あんた引っ越すの?」
「うん、まぁ…。学生マンションにはもう住めないからなぁ」
ああ、そうだ。とにかく今は早く住む場所を探さなきゃならないんだ。
幸か不幸か。そう意識が飛んでいた七海は、彼がその形のいい唇に企むような笑みを浮かべたのに気づかなかった。