最近実家よりどこより落ち着く場所となってしまった寮の部屋と帰宅すれば、ルームメイトである秋津奏太が出迎えてくれた。
 やはり心配してくれていたらしい。顰められた眉に喜びを感じて緩んでしまいそうになる頬を隠すように、梓は態とおどけた表情を作った。

「俺が押し倒される側じゃなかったらオッケーだったのにな〜。もったいねぇ」
「…………はぁ!!?」
「うわ、どうした奏太。急に大声出して」

 返ってきた彼の反応に、少し本気で驚いた。以前の彼ならばありえただろうその反応は、今では珍しいものだったから。
 奏太はノンケだ。それも外部生である彼は篠颯学園に蔓延しているこの手の性癖とは無縁だったらしく、理解に苦しでいる姿を幾度となく目にしている。
 だがそれも最初の数ヶ月の話で、元々順応性が高いのだろう、すぐに自然なこととして受け止めるようになり今では滅多なことでは動じなくなっていた。
 梓が自分の親衛隊の生徒と夜を過ごし帰宅してもまたか、と呆れるだけ。梓の性事情のだらしなさには一々気にするだけ無駄だと、諦観を抱いている節さえある。だが、そんな彼でも今の返答はさすがに面食らう発言だったようだ。
 あんまりにも奏太が奇怪なものでも見るような目をするため、梓はそんなにおかしくはないんだけどな、と思い出すように口を開いていた。

「や、冗談だよ冗談。ただあの潔さは気に入ったから、それもありかな〜なんて考えただけ」

 梓を真っ向から見返す、曇りのない瞳。
 告げられた言葉は直截で真摯な響きを伴っていて、梓の心を打った。
 ――似ていると思ったのだ。目の前にいる、彼に。
 その姿形ではなく、心の有りようが。
 そう思い至った瞬間、梓は苦笑するしかなかった。


<< >>
maintop


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -