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「悪いけど、あいにく恋人は募集してなくてね。でも――」
梓はすっと自然な動作で須賀に歩み寄り、そして、
「セフレなら、大歓迎だけど?」
そういって彼の頬に触れるだけのキスをした。
途端カッと目を見開き「んな!!??」と狼狽えだした須賀に、梓は笑いを堪えきれなくなる。
「ふは! そんな驚かなくても!」
――やはり、見かけほど彼の内面は荒んでないらしい。その初々しい反応は純粋な少年そのものだ。
だからこそ梓は彼を益々気に入ってしまった。
またしばらく、この退屈を紛らわせてくれる存在になりそうだと。
「……てめぇ、ふざけてんのか」
「いいや、本気さ。どうも君のこと、気に入ってしまったらしい」
地を這うような声音で唸る須賀に、梓はまるで他人事のように苦笑混じりに告げた。
それが彼のなにかを刺激したらしいと気づいたのは、腕を掴まれ力ずくで押し倒された後だった。
「――…ってて」
「……今更気が変わったとは言わせねぇ。一度吐いた言葉には責任を持てよ」
獲物前にした飢えた獣の眼光が梓を見下ろしている。ギラギラと揺らめくその双眸は、先ほどまでにはない情欲の色を強く孕んでいた。
『青姦』の二文字が脳裏に浮かぶ。なんでこいつは急に余裕をなくしてんだ、と梓は内心ギョッとしたが、そんな心情はおくびにも見せず、笑った。
「責任なら持つさ。けどそれは――」
ドスッ、と一発。
「君が抱かれる側になるなら、って話だ」
「〜〜〜〜っ!!!」
容赦なく腹に打ち込まれた梓の拳に、須賀が悶絶して崩れ落ちた。
「俺に突っ込もうなんざ百年早い。穴洗って出直して来いよ」
聞こえてるかどうかはわからないけど。
追ってくることのない須賀を置き去りにして、梓は振り返りもせずこの場を後にしたのだった。