奏太が自室で悶々とした想いに悩まされている頃、篠颯学園の裏庭では鶯巳梓と須賀京一が対峙していた。
(それにしてもまぁ……)
梓は腕組みをしながら、先ほどから無言で睨み続けてくる須賀をじっくりと観察する。
そして抱いた感心混じり感想をそっと心の中で呟いた。
(まるで、野生の獣だな……)
生徒たちがこぞって彼に恐れを抱くのも頷ける。
その眼光は刃のように鋭く滲み出る威圧感は天性の質を思わせるものだ。一学生が持つにしては凶悪なそれに噂通り肉体的な強さも兼ね揃えているのなら、大概の生徒はひとたまりもないだろう。
そう冷静に判断する梓は勿論、その大概の生徒に含まれていない。残念ながら梓は彼程度に怯えるようなかわいらしさは持ち合わせていなかった。
なぜなら梓はもっと恐ろしいものを知っているから。目的のためなら非情にも冷酷にもなれる、隙を見せれば喉元に食い付かれそうなほどの、猛獣を。
しかもだ。梓の知るそれは、普段は温厚な青年の皮を被りその獰猛さを微塵も匂わせないのだから質が悪い。だから須賀のように、常に毛を逆立てている相手などかわいいものだった。
だが、たとえ恐れるに足りない相手だとしてもこういった意味で身体を動かしますのは久方ぶりだ。
準備運動くらいした方がいいか? なんて思い始めた頃、ようやく須賀が口を開いた。
「……俺はまだるっこしいのが大嫌いなんだ」
キッとつり上がった須賀の瞳が、梓を射抜く。
「うじうじ考えてても仕方ねぇと思った。だからはっきり言わせてもらうぜ。――あんたに惚れた。俺のもんになれよ」
放たれた言葉を理解するのに、梓の脳は珍しくも数秒要してしまった。
理解して抱いた感想は『……………うわぁ』だ。
須賀の言葉は残念なことに梓の期待していた展開とは百八十度異なるものだった。
――筈なのだが。
(これはまた随分と熱烈な……。でも、)
――悪くない。
その真剣な眼差しも。堂々たる潔さも。
須賀の容姿は梓のタイプとはかけ離れたものであったし、彼の告白を受け入れる気はさらさらなかったのだが、その心意気だけはとても好ましく思った。
詰まるところ、気に入ったのだ。
だからこのままお断りをしてしまうのは惜しい気がして、――梓の形のいい唇が、まるで悪戯を思いついた子供のようにゆるりと弧を描く。