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「お、おまえなに!? あの不良相手に勃つわけ!?」
「勃つとかいやん。試してみないことにはわかんねーけど、偶には一筋縄ではいかない相手も悪かないかな〜って」
「…………」
絶句した。
彼がその手のことに緩いことは知っていたが、まさかそんなことを言い出すとは思わなかったから。
だって相手は不良だ。それも梓より体格のいい男。
梓が小柄と言うわけではないが細身な彼が須賀を押し倒すなんて、考えるものは誰一人としていないだろう。普通逆だ逆。
だが梓は本気で言っているらしい。奏太は彼の思考回路に眩暈がした。
「おまえ……相手してくれる子いっぱいるだろ……」
「それはそうだけど、なんていうかこう…従順過ぎて退屈で。刺激が欲しいって言うか……」
「…………いっぺん死んでこい」
「ちょ、奏ちゃん酷いっ」
……聞くんじゃなかった。
そう後悔しつつ、だが奏太は内心、どこか安堵している自分がいることにも気づいていた。
溜まるもんは溜まるんだから仕方がない、という言い分のもと自分の親衛隊に属する生徒と身体の関係をもつ彼だが、けして、彼が受け身にまわることはなかった。抱くのはいいが抱かれるのは御免だと、言い寄ってくる相手を容赦なく蹴散らす。それは彼がなにものにも捕らわれないことを表すようで、奏太の心に薄暗い喜びをもたらすのだ。
「や、冗談だよ冗談。ただあの潔さは気に入ったから、それもありかな〜なんて考えただけ」
「…………っ」
瞬間、身体の芯がぞくりと脈打った。
彼の口から『気に入った』なんて言葉を吐かせた、須賀に対する嫉妬の心が湧き上がる。
「………おまえな。それ、絶対相手に言うなよ。おまえを…抱きたいってヤツにんなこと言ったら、煽るだけだからな」
「おお、よくわかったね奏太。千里眼?」
「…………おまえ、まさか」
「うん言った。そしたら押し倒された。もうギラギラした目で見てくんだもん。喰われるかと思ったよ」
「〜〜〜っ!?」
事もなげに告げる梓があまりにも呑気で、迂闊過ぎて。
無性に、その危機感のなさを身を持ってわからせてやりたい衝動にかられた。
――今この瞬間目の前にもおまえを犯したい男はいるんだぞ、と。
「ま、腹に一発くれてやったけどな。俺男に抱かれる趣味はないし」
だがその一言に、伸びかけていた手は一瞬にして引っ込む。
手を出したが最後、奏太が歩むのは須賀と同じ道だ。
いや、彼より救いようがない。
なぜならそれにより奏太が失うものは、大き過ぎる。
「……たとえ梓がオカマ掘られようと、俺はトモダチでいてやるからな」
「奏ちゃんそれ全然フォローになってないよ?」
「だってフォローしてねぇし」
こうしてたわいもないじゃれ合いができることを、今は――これからも大切にしないと。
彼の屈託のない笑顔を見れるだけで幸せなのだと、奏太は胸に秘めるのであった。