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だからこの想いを打ち明けることはできなかった。伝えても叶う望みなどない。それどころか築き上げた信頼さえも失ってしまうだろうから。
奏太に許されるのはせめて友人――それも思い上がりではなくこの学園内で誰より彼に近しい存在であれている現状を、守り続けることだけだと思った。
だが、頭では理解していても感情は別だ。彼が他の生徒から好意を向けられるたび、奏太は苛立つ心を抑えられなかった。
きっと梓はあの不良の後輩からの呼び出しを喧嘩のお誘いだとでも思ってついていったのだろう。なにせ相手はあの悪名高い須賀京一。あの場にいた生徒も大半のものがそう思った筈だ。
だが奏太は、そうでないことに気づいていた。
大体、人前で言えないような話なんて怪しい。その上『ここではちょっと…』なんて言葉を濁した時の不良くんの顔は、すこし恥らったようなそれだった。
――それで気づかない方がおかしいのだ。
普段驚くほど頭の回転が速く物事を見極める能力が高い梓だが、偶に変な鈍さを発揮する。そのたびに奏太はハラハラとさせられた。
……まぁだからといって、あの梓がたとえ相手が生粋の不良だとしても窮地に陥るとは思えないのだが。
と、ガチャリと扉が開く音がし、「たっだいま〜」という軽い声が聞こえたのはその時だった。
「――……おかえり」
「お〜。あ、奏太。さっきはゴメンな。先帰して」
「それはいいよ。…それより、大丈夫だったのか? あれって須賀京一だろ」
告白されたんだろ、とはあえて聞かずに奏太は梓を見やる。と、梓はあっけらかんと笑った。
「ああ、あれな。喧嘩売られんのかと思ったら愛の告白だった。でも大丈夫大丈夫。丁重にお断りしといたから〜」
ひらひらとなんでもなさそうに手を振る梓に、どうやら本当になにもなかったようだと察して内心ほっと胸を撫で下ろす。だが続けられた言葉に、ピシリと固まった。
「俺が押し倒される側じゃなかったらオッケーだったのにな〜。もったいねぇ」
「…………はぁ!!?」
「うわ、どうした奏太。急に大声出して」
梓のきょとんとした顔など珍しいのだが、今はそんなことを気にしている場合じゃなかった。
彼が残念そうに放った言葉の真意を、問いたださねば。