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クスリ、と、
「ほんと、かわいいやつだな」
はにかむ七海は、かわいい。――て、そうじゃなくて!
「前にも聞いたけど照れるなぁ」
「……はっ? …前?」
「うん、前に寝ぼけて俺の布団にもぐり込んできた時あっただろ? そん時もいってたぞ〜」
「っ一世一代じゃないじゃん! 俺なにやってんの!?」
「? まぁ落ち着けって。ちゅーもされそうになったけど防いだから大丈夫」
「全然大丈夫じゃねーよ! もう最悪だよ!!」
あ、ヤバい。涙出そうだ。
だってこれはあれだ。
勇気を出して伝えたのに、想いは彼に、届いていない証拠。
「そんなに慕ってもらえて嬉しいよ。でも彼女できたら、俺のことは気にせずそっちを大切に――」
「七海さん、」
それ以上聞きたくなくて、蜂谷は言葉を遮って七海をぎゅっと抱きしめた。それから顔を隠すように、彼の首もとに頭をうずめる。
「……出ていく必要なんかないから」
「――うん。蜂谷がいいなら」
「……七海さん、好き」
「うん? 俺も好きだぞ」
ぽんぽん、と背中をたたいてくれる七海の優しさがつらい。
はぁぁ、と大きく息を吐いて、蜂谷は彼を解放した。
一つの決意を胸に秘めて。
――長期戦、上等じゃないか。もとより焦るつもりはない。
どれだけ彼が鈍かろうと、絶対に振り向かせてやる。
だって彼は今、手の届く距離にいるのだから。
「あ、そういえば蜂谷」と思い出したように告げた七海は、にこりと。花が咲くように笑った。
「ウェイター姿似合ってる。すっごくかっこいい」
あーもうヤダ。この人ほんと、タチ悪い。
苦渋の思いで溢れかけた想いを抑えたのに、そんな笑顔を見せるから、またうずうずとした衝動が湧き上がる。
七海さんが悪いんだ。
焦らないとは決めたが、手は出さないと決めたわけじゃない。
蜂谷はふっきれたようににやりと笑って――彼の唇をふさいだ。
甘くて苦い味 END