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 まったく余計なことをしてくれたと思う。今はすぐに誤解が解けたからいいものの、七海のことだ。信じてしまうようなことがあれば気をつかって、『お世話になりました』と数秒後には家を出く、なんてことになりかねない。
 ぼんやりしているように見えて、変に行動力だけはあるから厄介なのだ。
 ようやく手に入れた人である。出て行く気になんて一ミリも思うことがないよう、気がかりはすべて、確実に取り払わねば。

「あのさ、蜂谷。俺いつでも出てく覚悟はあるからな」
(カウンターきたぁぁぁ)

 貼り付けていた微笑みが崩れなかったのは、奇跡と言っていいだろう。
 だが内心は激しく動揺していた。
 なんでそうなるんだ、と叫びたい衝動を抑えるのに必死だった。

「お金も前よりかはちょっとたまったし三食白米でも……それは無理かもしれないけど梅干しつきなら耐えれると思うし、」
「七海さん、ちょっと落ち着いて」

 だが、七海も動揺しているのだということに気づいて、少し冷静になる。
 蜂谷は諭すように殊更優しく、ゆっくり話しかけた。

「勝手に出てく計画なんかたてないで。俺は七海さんを追い出す気なんてまったくないし、彼女だって作るつもりもないよ」

 そこまで言って、いっそ、と思った。
 『覚悟はある』といいながら瞳を揺らしている彼。不安げなのは、彼もまた蜂谷と同じ気持ち――そういう意味での好意を抱いていてくれているからなんじゃないか、なんて期待してしまって、今がチャンスのように思えて仕方がない。
 そんな都合がいいわけないのに、このまま想いを伝えてしまえ、と耳元で誰かが囁く。

「俺は――」

 もはや衝動だった。

「これからも七海さんと二人で暮らしたいよ。――……俺、七海さんが好きだ」
(よし、言った…!)

 一世一代の告白だ。
 予定外だが、ずっと伝えたかった想いだから後悔はない。
 じっと蜂谷が見つめる視線の先では、七海が驚いたように目を丸くしている。蜂谷はただただ答えを待ち続けた。

「――おまえ、」


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