「それに偶に手作り弁当持ってくるのって、『自分で作った』って言ってるらしいけど彼女が作ったに決まってるよね!」
「だよねー。あーあ、蜂谷くんフリーじゃなくなっちゃったんだー。わたしも告ろうと思ってけどそんなラブラブなんじゃ絶対無理だよね〜」

 今話題となっている『蜂谷』は七海の知る彼で間違いないだろう。自分で弁当を作る高校生――それも同姓なんて中々いない筈だ。
 「あんたじゃ元から無理だって」と笑いあう彼女たちの声は、もはや七海の耳には届かなかった。

 頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。
 自分の存在が彼に迷惑をかけている自覚はあったが、まさかこんな形でも現れるとは。自分がそういったことと無縁だった所為か、すっかり頭から抜け落ちていた。
 たぶん蜂谷に彼女はいない、と思う。半年も一緒に暮らしていれば、さすがに気づけるる筈だ。
 だがどちらにせよ、少なからず七海が障害になっている事実に愕然とした。
 『付き合いが悪くなった』のは毎日食事を作ってくれるためだろうし、『弁当』の所為で彼女がいるなんて誤解までされてしまっているらしい。それでは彼女を作りたくても、女の子からは倦厭されてしまうだろう。
 それにもしかしたら、蜂谷は優しいから七海が居づらくならないようあえてそういう存在を作らないようにしているのかもしれない。
 そして逆に、もし本当に彼女がいたとして、その場合確実に彼に気を使わせてしまっている。
 なぜなら七海がまったく気づかないほどなのだ。きっと遠慮して家にも連れて来ないのだろうし、学業に加え忙しい家事で彼女との時間が取れていないに違いない。
 そう思い始めると、彼に酷く申し訳ないことをしている気がして居たたまれなくなってきた。蜂谷だって本当は嫌気がさして来ているのに、一度拾ってしまった手前放り出すことができなくなっているんじゃないか、とか――
 ぐるぐるとそんな想いばかりが駆け巡り、七海の頭の中はいっぱいだった。
 だから、彼女たちがこちらを振り返ったことにも気づかなかった。

「――やだ、立ち聞き!?」
「え〜最低ーっ」

 ぽかん、と口をあけた七海はさぞかし間抜けだったことだろう。
 そしてその後。
 正直に迷子で――そして目的の人物である彼の名を告げれば、彼女たちはなぜか怒りを納め、小さな子供を相手するような態度で丁寧に案内をしてくれた。



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