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ちらり、と伺うように見上げた先では、薺が楽しそうな笑みを浮かべている。
彼がなにを待っているのか、それは考えるまでもないことだった。
「………おはよ」
苦笑いになってしまったのは仕方ないと思って欲しい。
はは、と乾いた笑いを浮かべて言えば、薺は至極満足げに、柔らかに頬笑みながら「ああ」と頷いた。
結斗はというと不貞腐れたようにそっぽを向いたままだ。鳩にはなにがなにやらさっぱりだった話は決着したのか、もうなにも言うことはないらしい。
鳩はそこではっとした。
また言い合いが復活しない内に話題を変えたい。だから急くように「あのさ」と声を上げた。
――今まで一言も発せず、ずっと傍観していた薺の傍にいる一人の生徒へと目を向けて。
「――彼は?」
『彼』と鳩が指した生徒は、見覚えのない少年だった。
薺の傍にいるのだから薺と共にやって来たのだろうが、余りに静かに佇んでいるものだから、彼がいることに気づいたのはつい先程のことだ。
どうやら結斗はまったく気づいていなかったようで、その生徒の存在を今知ったという風に驚いた顔をしている。
だがそれも無理はないだろう。なんというかこの生徒、酷く存在感が薄かった。
背丈が小さいというわけではないのだが線が細く、黒色の長い前髪とメガネによって目元は隠されていることもあって、大人しそうな――内気そうな印象を受ける少年である。
現に視線を集めただけで彼はおどおどしだしており、緊張が伝わってくる。
薺が思い出したように、ああ、と彼を振り返った。
「悪い、紹介が遅れたな。こいつは――多々良芹だ」
「は、はじめまして。よろしくお願いします!」
そう言って勢いよくお辞儀をした生徒――『多々良芹』という彼の名には聞き覚えがあった。