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先手を打たれ、鳩はうっと言葉を飲み込むしかない。だが悩む間もなく、目の前に立つ結斗がすっと動いた。
「なに勝手なこといってんだよ」
そう告げる結斗の声音には、不機嫌さがありありと含まれていた。
こちらからは表情を伺うことはできないが、じっと薺を見返すその双眸は鋭く尖っているのだろうと思わせるほど彼が纏う空気は冷たく、苛立っているのがわかる。
そして結斗の言葉は、鳩にとって助け舟となった。
「鳩、こいつの言うことなんか聞かなくていいからな。――これは命令だ」
「!」
『命令だ』ときっぱりと言い切った結斗に、鳩は――ほっとした。
命令なら悩む必要がないから。自分はただ、主である結斗の言葉に従えばいいだけだ、と。
薺には申し訳ないが、いくらか晴れた気分で『了解』の二文字を言いかけた――その時(既に『りょ』くらいは発していただろう)。
またもや、出鼻をくじかれた。
「別にこれくらい構わないだろう。何も――『全て話そう』ってわけじゃない。ただクラスメートになるのに一々堅苦しい話し方をされたくないだけだ」
薺がなにを言っているのかはよくわからなかった。だが結斗の纏う温度が、一、二度下がったことだけはわかる。
「……なに企んでんだよ」
「なにも。おまえだって敬語で話しかけられたら落ち着かないだろう?」
「…………っダメ、絶対ダメだ」
はぁ、っと薺がため息を吐いた。
「この程度も許容できないほど余裕がないのか? おまえがそんな様子だと任せておいていいのかと不安になる。俺としては今この場で伝えてもいいんだがな」
「――っ!!」
鳩はもはや彼等の会話についていけていないため、何がなにやらさっぱりだが、それは結斗にとって見過ごせない内容だったらしい。
キッと振り返った結斗は酷く苦々しい表情で、「……鳩っ」と悔しげな声を上げた。
「……………あいつのこと、もう敬わなくていいから。むしろぼっこぼこのめっためたの害虫のように扱ってやれ!!」
「ええっ!」
それはつまり、敬語はやめろということで。
鳩は最後の頼みの綱が切れたことに、がっくりと項垂れた。