「――結! 起きろ!」

 朝だぞ、と傍で繰り返しても、案の定身動ぎ一つしない結斗に、鳩は呼び起こすことを諦めて、今や習慣となってしまった行動にでた。

「ほら、飯だぞー」

 結斗にとって食欲は睡眠欲と同じくらい重要性が高いのだ。そのため食の存在を釣り竿の餌の如くちらつかせば覚醒を促せる、というわけである。
 だめ押しと言わんばかりにできあがったばかりの朝食を結斗の鼻先へ持っていけばぴくりと反応を見せる彼に、鳩はしめしめと笑った。
 だがこれでも覚醒には程遠い。鳩はそれからよいしょ、と結斗の身体を起こすと、うつらうつらとしたままの彼を食卓へと運んだ。すると徐に寝ぼけ眼で食事を始める結斗に、その間の鳩の仕事は彼のさらりとした髪についた寝ぐせを直してやること――なのだが。
 寝相の悪さを物語るようにぴょんぴょんと跳ねた髪。今日のそれはかなりしぶといようだ。
 しばし格闘するもなかなか直らず苦戦していると、そうこうしている内に結斗が覚醒した。

「――……んぐ、……あれ?」

 もぐもぐごくん。咀嚼していたものを飲み込み、結斗は不思議そうに首を傾げる。

「これ、鳩が作ったのか?」

 『これ』とは勿論食卓に並べられた朝食のことで間違いないだろう。結斗の驚きを含むその言葉に、鳩は得意げに笑ってみせた。

「結構うまくできてるだろ。栞さん直伝だぜ」

 栞さん、とは間崎家に仕える三十半ばという若さながら料理長という立場にある人物だ。鳩達が幼い頃から料理人として務めている彼とは接する機会も多く、その気さくな性格から鳩や結斗とは親しい間柄にあった。
 料理長という肩書き通りその腕はぴかいちで、教わったのは学園入学までの二、三ヶ月程度という短い期間であったが、簡単なものなら彼の太鼓判をもらえるほど鳩の料理スキルは成長していた。
 「うん、うまい!」と忙しく口を動かす結斗の喜んでいる様子に、栞のスパルタに耐えた甲斐があったと嬉しく思う。

「あ、人参の隠し方もしっかり学んでおいたからな。わかんないだろ?」
「――ぶっ!」

 味も見た目も嫌なのだというそれを、暗に朝食に入れたことを告げれば吹き出した結斗に、鳩はしてやったりと笑った。


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