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ざああ。ざああ。
大粒の雨が激しく降り注ぎ、屋根を、地面を、窓を叩く音がしきりに鳴り響く室内は、暗雲に覆われた空と同じく影を落としている。
この雨は昨日の晩の頃より降り出し、勢いも治まらぬままこうして朝方まで降り続けていた。
明けか宵かもわからぬ天候の中では、自然と皆、口数も少なくなるものだ。
だが、ひっそりと静まり返った屋敷の一室では、齢五つ程度の幼い子供が晴れやかな笑顔を浮かべて喜びの声をあげていた。
「わぁ! とんだ! とんだよ!」
「ええ、よろしゅうございましたね、結斗様」
天井を見上げながらくるくると回る子供の傍らで、にこにこと優しく微笑む年老いた女が相槌を打つ。
そして女は、
「それではその『鳩』も、そろそろ空に返してやらねばなりませんね」
そう諭すように、子供――結斗に告げた。
この女は屋敷に仕える古参の女中であり、屋敷の主――間崎凪斗の息子である結斗の世話役である。まだ幼い結斗の側に常にあり、母親代わりとも言える者だった。
――『鳩』とは一週間ほど前に、結斗が屋敷の庭先で傷を負い飛べなくなっていたところを発見した鳥のことだ。
野犬にでも襲われたのであろか、翼と足に怪我を負っていたその『鳩』に、手当てを施し丁寧に包帯を巻いてやったのはこの女であった。
「……うん。でも! おそとはあめだよ! まだいいよね」
この『鳩』は野鳥だ。拾ってすぐ、傷が癒えたなら外の世界に放してあげましょうね、と諭した女に、少し残念そうではあったが、結斗はしっかりと頷いている。
その約束を覚えているのだろう結斗は、悲しそうな顔を見せたものの、『鳩』との、雨が上がるまでの残り僅かな時間を楽しむことにしたようであった。