「あんまり無理すんなよ。実技は役に立てねぇけど筆記対策なら手伝えるし、遠慮なく頼ってくれていいからな」
「ありがとうございます」

 鳩は優しい。
 けして押し付けがましくなく、すとんと胸に落ちる優しさで躓きそうな時にそっと支えてくれる。
 理々の知る彼を慕う者のほとんどは、そうした彼の優しさに触れて心を奪われた者達だ。
 だが――真実彼が瞳に映すのはいつもたった一人だけで、秘めた思いから哀しげに瞳を揺らす者がいることも、理々は知っていた。


「――あ、結来たみたい」

 ふわり、とそう言って簡単に理々から視線を外した鳩が、一方へ目を向ける。
 そこにはまだ影も形もないが、僅かな気配を感じ取ったらしい。彼は殊結斗のことに於いては敏感だから。


 ほどなくして現れた結斗の、彼に対するほっと安らいだような笑顔と、彼の結斗に対する柔らかな微笑みに、酷く羨ましいと感じてしまった想いは、溶けて消えゆく雪のように、しとりと理々の胸の中に染み込んでいった。









雪舞う季節の end


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