眩む視界にぼんやりとして働かない思考、それからガンガンと痛む頭に軋む関節。
 この症状はどう足掻いても、――風邪だ。
 自室のベッドに横たわる薺は、何年ぶりになろうかという自身を苛むその症状に、思いも寄らない自分の軟弱さをむざむざと突き付けられる羽目になった。

「この程度で寝込むなんてな……」

 ため息と共にやや自嘲気味に吐き捨てれば、キッチンの方から、パタパタと床を鳴らす足音が聞こえてくる。

「この程度って……三十九度もあるんだから寝込んで当然だよ。いいか、無理せず大人しく寝とけよ。じゃないと治るもんも治らないからな」

 同い年の上男相手なのに、エプロン姿でお玉片手に母親じみたこという姿がやけに様になっていると思うのは、きっと薺だけではないだろう。言い聞かすように告げる鳩に、薺は「ちゃんと寝てる……」と掛け布団を引き寄せながらぼやいた。

 なぜ彼が平日である昼時に薺の自室にいるのかというと、もちろん病人の世話をしに来たからに他ならない。わざわざ昼休みを割いて、薺の昼食を作りに来てくれているのだ。
 風邪を引いたことで薺は思わぬ至福のひとときを得たわけだが、彼がこうして世話に来ると決まるまでには、今朝薺の高熱が発覚した際にひと悶着あった。
 まず、最初は同室者である多々良が面倒を見ると少々不安気な様子で言った。だがその時、多々良以外の全員が薺を不憫に思ったことは間違いないだろう。なぜなら多々良は、生活能力が皆無だからだ。料理なんてもっての他な彼に、病人の世話ができるとは誰も思えなかった。その時は薺も風邪の悪化を覚悟したものだ。
 だがそこで救いの手が差し伸べられた。鳩がもしよかったら自分が、と申し出てくれたのだ。そしてもちろん、そこで結斗がなんでおまえがと、渋る様子を見せた。
 だが珍しく、結斗はもごもごと不満を口にするだけで口を閉ざした。なぜなら結斗には強気にでられない理由――薺が風邪を引いた原因の九割は、自分の所業にあるという負い目があったからだ。
 季節の変わり目でありまだ肌寒い今、結斗の相変わらずな暴走により全身びしょぬれとなった薺が翌日熱を出した。推し測らずとも原因は特定できよう。

 そういった経緯があり、結斗のお詫びもかねて鳩はこうして薺の部屋を訪ねてくれているわけだが――


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