7
「――――ひまわり?」
呟いたのは結斗だ。彼の声に『成功』を悟った鳩は目を開ける。
目の前には、一本のひまわりが咲いていた。
「…あ……一本しか咲かなかったか。でも、成功だな」
花を咲かせる術は授業で習ったばかりで、その上魔導が得意ではない鳩が成功できる確率は半々だったが、一本でも芽吹かせその花を開かせることができたなら上出来だ。
くるりと振り返りきょとんとしている結斗を見上げて、鳩は告げた。
「結、誕生日おめでとう」
ぱちぱち、と数度琥珀色の瞳が瞬く。
それから――頬を夕日色に染めて、結斗は微笑んだ。
「…………あ、りがと。で、でもなんでひまわりなんだよ」
「結の誕生花なんだって。それにさ、まっすぐで、力強くて、結みたいだなって」
「……っな、なに言ってんだよ」
「かわいいしなー」
「〜〜〜っ!!」
言ってしまってからやばいっと口を噤んだが、覚悟していた鉄拳は飛んでくることはなく、結斗は心の中の葛藤を表すかのような百面相をした後、大きなため息を吐いてしゃがみこんだ。
鳩は慌てて結斗に駆け寄る。
「ゆ、結、どうした? ……あ、言い忘れてたけどあれが俺からの誕生日プレゼントなんだ。気にいらなかったらごめん」
「……わかってるよ。う、嬉しいに決まってるだろ、バカ!」
ぷいっとそっぽを向く結斗の頬はまだ赤く染まっていて、そのぶっきら棒な物言いが照れ隠しであることをつげている。
思わず微笑んでしまうと、咎めるように低く呟かれた。
「…………枯らした承知しねーからな」
「え。そ、それは難しいぞ。花って季節があるしっ」
「…………」
「ちょ、待て、あ、あれだ。夏が終われば枯れちゃうと思うけど、また来年も、そのまた来年も、これから毎年咲かし続けるって約束するから許してくれ」
「…………ずっと?」
結斗の周囲に漂い始めた不穏な気配に冷や汗を流しながら告げれば、ちらり、と窺うように見上げられた。空気が和らいでいるところみると、なんとか機嫌を損ねずにすんだらしい。
その長い睫に縁取られた瞳を見返して、鳩は微笑む。
「うん。ずっとだ」
その言葉はとても重くて、鳩にとってはゆるぎない想いを込めた誓いでさえあったのだが、それは彼に伝わっているだろうか。
――いや、伝わっていなくてもいい。結斗が忘れてしまっても、自分が覚えていればいいだけなのだから。
結斗がそのかんばせに満面の笑みを浮かべるまで後一秒。
大輪の花がほころぶような彼の笑顔に、鳩の心もまた、ひだまりのような暖かさに包まれることになる。
ひだまりの花と end