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だが、ふと気になったことがあって、「はと、なんで木からおちてきたんだ?」と尋ねてみる。
と、『鳩』はまるでどこか痛むように、苦しそうに眉を顰めて――
「……にげないといけないきがして……木からおりれば外にでられるとおもったんだ」
『にげないと』とは何からなのか。
『鳩』が何を言っているのかよくわからなかったが、それよりも結斗は『鳩』のそんな表情を見ていたくなくて、吹き飛ばすように明るく、胸を張って言ってやった。
「にげなくていいんだぞ! だってきょうからは、ここがはとの家になるんだからな!」
「……家?」
「そうだ! だからどこにもいくな!」
『鳩』が再び戻って来てくれたのは、これからもずっと結斗と一緒にいるためなのだ。
そう信じて疑わない結斗は、今度こそ誰に反対されようとも『鳩』と一緒に暮らすと、自分が面倒を見るのだと決意を固めた。
『鳩』はぱちくりと数度目を瞬かせ、そして――
「……うん」
仄かに頬を染めながら、小さく――だがしかしはっきりと頷いて、微笑んだ。
『鳩』にとって結斗のその言葉は、目覚めてからずっと、自分の名さえもわからず、取り留めのない不安に襲われ張り詰めていた心に安らぎを齎す言葉であったのだが、勿論結斗は、そんな『鳩』の心情など知る由もない。またその想いによって、彼がどれほど救われたのかも――
ただ、この瞬間。
鳩という名の、一人の少年が生まれたのだということは、確かな事実であった。
それから程なくして戻ってきた女と共にやって来た凪斗が、庭で楽しそうに戯れる二人の子供を見て相好を崩したのは、また、別の話である。
雨垂れと共に end