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「……十埜がどこでどう勘違いをしたのかはしらないが、もう一人の首席は『多々良芹』という生徒だ」
「え、そうなんですか」
「ああ。事前に学園の者から聞いていたから間違いない」
「………薺さん、喧嘩売られ損だったんですね」
十埜の勘違いだったとは……。
薺が不憫すぎる、と苦笑いを浮かべるしかない鳩に「まったくだ」と呆れ気味に嘆息する薺だが、どうやら本題はここかららしく、でだな、と口を開いた。
「――その、『多々良芹』が同室者らしい」
「………ま、間違いないんですか?」
「ああ。その名が書かれた荷物があったからな」
……故意、なのだろうか。なにを狙ってかはわからないが、首席者同士を同じ部屋に割り当てるなんて、偶然とは思えない。
「十埜みたいな奴じゃないといいんだがな…」と呟く薺は疲労感いっぱいで、鳩は思わず同情してしまった。
だから少しでも薺の憂いが晴れることを願って、
「困ったことがあったら俺達も力になります。ちょっと頼りないかもしれないですけど」
明るく告げた、のだが。
「――……なぁ、そうやって気遣うのは家同士の関係性を気にしてか、それとも『友人』としてか」
「へっ?」
突然、薺がいつになく真剣な顔をしてそんなことを問いかけてきた。
じっとこちらを見つめる双眸は鋭く、鳩は蛇に睨まれた蛙のように固まってしまう。
だがしかしだ。そんなこと考えるまでもないこと。
鳩はけして視線を逸らさず、迷うことなく答えを紡いだ。
「『友人』として心配して、です」
薺を打算的な目でみたことなどない。親しくするのも助けたいと思うのも、薺の人柄あってのことだ。その想いが伝わるように、鳩もまた揺らぎない瞳で薺を見返した――のだが。
薺が浮かべたのは、なぜかにやりという人の悪い笑みで。