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 薺の足取りは迷いがなく、どこかに向かって歩いているのだろうと後ろに続いていた鳩の前で薺が足を止めたのは、廊下の一角に設けられた椅子やテーブルのある談話スペースだった。
 自販機が備え付けられており、わざわざ購買までいかなくてもここで飲料や軽食ならば変えるようになっているらしい。その中の隅の方にある椅子に腰を落ち着けた薺の隣に鳩も座った。

「薺さん、同室者には会えたんですか?」

 なんとなくだ。沈黙に耐えられなくて、鳩の方から薺へと問いかけた。

「いや、まだだ。既に入寮はしているようだが不在だった」
「そうなんですか。それじゃあまだドキドキですね」

 そう言えば、こんな風に薺と二人で話すこと自体珍しいかもしれない。普段は結斗がいて、すぐに喧嘩ごしな言い合いを始めてしまうのが常のため、穏やかに談笑した記憶などほとんどないといっていいほどだった。
 改めてそのことに気づくと、変に構えてしまって上手く言葉が浮かばない。ちらりと薺を見やった鳩はそこで、薺がどこか微妙そうな浮かない表情をしているのに気がついて首を傾げた。と、それに答えるように薺が口を開く。

「――十埜が、自分が首席だと言ってただろう」
「あ、はい。すごいですよね。薺さんと同位なんて」

 脈絡なく十埜の話を持ち出す薺に、鳩は不思議に思いつつも教室でのことを思い返した。確か薺も『首席は二人』だと言っていた筈だ。いまいち信じらない話だが、真実なら純粋に賛嘆することである。
 頷き返せば、なぜか薺にはふいっと顔を反らされてしまった。どうしたんだろう、と思ったものの、薺が続けた言葉に意識が集中する。


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