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部屋の中に響き渡るそれを耳にしたのは初めてだが、明らかに来客を告げる呼び出し音であることはわかる。そして、約束などはしていなものの自分達の部屋に訪れそうな――部屋番号を知っている人物など一人しか心当たりはなく、鳩は迷わず立ち上がって入り口に向かい、廊下に繋がる扉を開けた。
果たして、そこに立っていたのは幼馴染みでありクラスメートである人物で。
「――薺さん」
「今、いいか?」
尋ねてくる薺に大丈夫だと頷き返そうとした鳩は、そこであっと返答に困った。
「すみません、結斗、今寝てるんです」
遊びに来たのか、用があって来たのかはわからないが、肝心の結斗はおやすみ中だ。
起こすことは苦労するとは言え勿論可能だが、できればまだ寝かせておいてやりたかった。
「………いや、あいつはいい」
「?」
そう思って告げたのだが、返ってきたのは結斗に用があったわけではなさそうな返答で。
ならどうしたのだろう、と不思議に思い首を傾げた鳩に、薺は目を細めて笑みを浮かべた。
「鳩、暇だろ。ちょっと出てこい」
『出てこないか』ではなく『出てこい』。断られるとは思っていないらしい。
有無を言わさぬ薺の言いように苦笑した鳩は一瞬結斗が過ぎったものの、ちょうど手持ち無沙汰だったためまぁいいかと、了承の意味を込めて頷き返した。