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「――んー、こんなもんかな」
積まれていたダンボールをつぶし終え、出した荷物の整理もあらかた終えた鳩は、一息ついて部屋の中を見渡した。
今は結斗が寝てから小一時間ほど経ったくらいである。勿論結斗はまだ夢の中だ。
鳩も結斗も家から持ち込んだ荷物は少なく、最低限の衣類やその他諸々という程度だったため、片すのにそう時間はかからなかった。
鳩は備え付けられていた二つある机――所謂勉強机と呼ばれるものだろう――の内の片方の椅子に腰かけた。この二つの机は、それぞれ座ると背中合わせになるよう対面に設置されており、鳩が自分の机に選んだのは左側にある方だ。結斗と相談したわけではないが、どちらでも大した違いはないだろうと勝手に決めさせてもらった。
鳩はそれから、何気なくその回転式の椅子でくるり、と一回転した。
(……これからここで暮らすんだよな)
結斗と暮らすことにはなんの不安も感じていない。元々同じ家で兄弟のように過ごしてきたのだから、住む場所が変わったと思っているだけだ。
ただ、なんとなく落ち着かなかった。数日もすれば慣れるのだろうが、そわそわとしてしまってじっとしていても頻りにあたりを見渡してしまう。
普段その奔放な性格からか幼くみられがちな結斗だが、こういう時あっさり寝てしまえるあたり逞しいんだよなと(ただ寝汚いだけかもしれないが)、すやすやと穏やかな寝息を立てている様子に鳩は苦笑した――と。
ピンポン、と軽い電子音が聞こえたのは、その時だった。