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「そんなこと気にしなくてもいいのに〜。鳩くんってばけ、な、げ、さん! ますますタイプだな〜」
なんですと。
解くどころか、また一つ増やしてしまったらしい。
(け、健気って……)
今のやり取りで、何をどうしたらそうなるのか。
さらにじりじりと距離を縮めつつある樒に、さらに危機感を抱いた鳩は無意識に数歩後退した――と。
「――結斗と意見が合うのは不本意だが、貴方にはそこから動かないでもらいたいな」
薺がそう言って、一歩前に進み出た。彼の傍らでは、前文を聞き取った結斗が「どういう意味だそれ!」と怒っているが、薺はまるで聞こえないと言わんばかりに無視し、樒を見返したままだ。そして言葉を続けた。
「俺達は今日入寮する者だ。用件がないなら帰るぜ」
言いつつ、薺は既に退却モードである。踵を返し出口に向かって歩き出す彼に、すれ違い際腕を掴まれた鳩も自然と引きずられた。
だが、それでようやく樒のペースを乱すことができたらしい。
「ちょっ、ちょっと待ちなさいって! も〜せっかちさんだなぁ」
慌てて静止の声を上げる樒に、薺が小さく嘆息したのがわかったのは鳩だけだっただろう。
「説明するからね。そこでいいから座ってくれる?」という樒のつまらなさそうな、だがしかし真面目に告げられた声に、鳩達は無言で従った。