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「結、それはそっちの本棚な」
「おうっ」

 取りあえず入り口から、足場を確保すると同時に床に散乱した物を手際よく仕分けしながら整理していく。
 先ほどの結斗との目配せは、あれだ。
 片すぞ、という合図。
 極度の綺麗好き、という訳でもなく常識的な感覚の鳩達でさえそう我慢ならなくなるほど、この部屋の有り様は悲惨だった。

「薺さん、これ持っててください」
「…え、ああ」

 あまり片付けが得意ではない結斗には鳩が指示をだし、珍しく戸惑っている様子の薺も容赦なく使う。
 それを繰り返すこと数分後――
 散らかっていた物を整理した、という程度だが、部屋の中は見違えるほど綺麗になっていた。
 ――だがしかしだ。
 かなり騒々しくした筈なのに、この部屋の主は未だ夢の中である。
 まるで結斗のような寝汚さだ、と鳩が思ったのその時。

「いつまで寝てんだよっ」
「あ」

 おそらく手間を取らされて苛立ちが限界に達したのだろう結斗が――その男を足蹴した。
 結構――いやかなり、容赦なく。
 蹴り飛ばされたそれは勢いよくゴロゴロと転がって、壁に追突した。

「…………う」

 思わず身を隠したくなったのは自分だけではないと思いたい。
 呻き声を上げて、さすがに目覚めたらしい男がゆっくりと立ち上がる様子を、鳩は叱責を受ける覚悟で見守った――のだが。

「…………おはよう?」

 どうやら運良く。蹴飛ばされたことは気づかなかったらしい。

「え〜と、新入生の子だよね? あはは、ごめんねぇ。俺、寝ちゃってたみたい〜」

 のほほん、と。寝癖だらけの肩口まである白髪を軽く掻き上げながら、男はへにゃりと情けなく笑った。


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