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寮の中は、その仰々しい外観に反して思いの外シンプルな内装の、落ち着いた雰囲気のある建物だった。
ただその構造は一風変わってるようだ。
入っていきなり目にするのは三方向に分かれた道。そしてその手間にある、『寮監室』という札が掲げられたこじんまりとした部屋。ただそれだけである。
どうやら道の先にそれぞれ部屋があるようだが、何百人もの生徒が暮らしているとは思えぬほど、ひっそりと静まり返っていた。
ちょうど行き交う者もおらず、なんだが話すのも躊躇われるほどの静けさだ。そう鳩が思ったところで、「すみませーん」と結斗が寮監室に向けて放つ声が聞こえて来た。
のだが――
「すみませーん! ……なんだよ? 誰もいねーの?」
最初より声を張り上げて結斗が繰り返すが、一向に誰も出てこない。さすがに聞こえていない、ということはないだろう。
夏帆谷はいる筈だと言っていたのだが、タイミングが悪かったのだろうか。
焦れた結斗が扉を叩き出し、ノブに手をかけると、扉はあっさりと開いた。
「ちょ、結、」
勝手に開けるのは不味いだろう、と呼び止めようとしたのだが、気になるのは鳩も同じだ。
好奇心が勝ってしまい、結斗と共に中を覗き見た――と。
そこには――混沌とした光景が広がっていた。
――パタン。
鳩と結斗が同時に身を引いて扉を閉めたのは、当然のことだっただろう。
だがしかし。
「……いたよな」
「……うん、いたな」
というか、たぶん『寝てた』。
おそらく、この寮の寮監である人が。足場すらないゴミ屋敷の中心で、ぐーすかといびきを立てながら。
鳩と結斗は顔を見合わせ――そして。
意を決して、再び扉を開いた。