すると鳳城もまた、鳩を見ていて――
(……あ)
鳳城が浮かべたのは、申し訳なさそうな、疲れたような苦笑だ。
どうやらこの鳳城という人物も、手のかかる友人に振り回される苦労人らしい。
何だか親近感を抱いてしまい同じく苦笑で返した鳩は、慌ててそんな場合ではないと、結斗達に視線を戻した。
少し目を離していた間に、テーブルや椅子をなぎ倒しながらヒートアップしているようだが、未だどちらも一発も入れられていないようだ。
鞍眞も炎は封印しておくことにしたようで、彼等の戦いは肉弾戦となっていた。
(……どうすっかな)
このまま決着がつくまで待つのも手だが、その場合かなりの被害と厳罰を覚悟しなければならないだろう。
今すぐ止めさせるのが一番だが、さすがにあの場に入って行くことは鳩にはできない。
――しかしだ。
止めることなら、できる。
「……薺さん」
薺にひそりと耳打ちした鳩は薺の肯定を合図に、『それ』を結斗達の元へと投下した。
「「――!?」」
――煙幕である。
突然足元で弾けた玉が撒き散らす白い煙に、驚いた結斗と鞍眞の攻撃手は止まる。
その隙を狙って鳩は結斗の腕を掴み、食堂の出口目指して駆け出した。
「――ゴホッ、んだよ! 能力か!?」
「いや、違うよ」
最も煙の多い中心部で咽せる鞍眞に、歩み寄った冬夜は「煙幕だ」と答えてやる。
「…煙幕? なんつー古典的な」
「けれど賢い方法だ。なんの違反にもならないし、目くらましには十分だろう?」
冬夜の言葉にはっと辺りを見渡す鞍眞だが、そこには戸惑う生徒達がいるだけで間崎や浅霧の姿はない。まんまと逃げられたことを知った鞍眞が、ちっと舌打ちをした。
「いいとこだったってぇのにっ」
「――鞍眞」
苛立たしげに足元に転がっていた椅子を蹴り上げる鞍眞に、冬夜は静かに呼びかける。
そして、
「悪いが、『不問』にはしないよ。全て君に責任を取ってもらう」
そう、淡々と告げた。
予想通り鞍眞が「ああ?」と目を眇めて睨んでくるが、今の冬夜には、全く気にならない。
とびきりの笑顔でにこりと笑って、言ってやった。
「――僕は怒っているんだ。覚悟はいいよね?」