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「いつ誰が誰を『侍らしてる』って……? ――ふざけんなっ! 侍らされた覚えなんか全くねーよ! 仕方なく一緒に食事してやってんだ!」
ガタンと椅子から立ち上がった結斗は、今にも鞍眞につかみかからんばかりである。
(…………しまった)
どうやら鞍眞の挑発は、見事結斗に的中してしまったらしい。
時既に遅し。
頭を抱えた鳩の隣で、薺もまた、眉を顰めたのが見えた。
「へぇ。ちっせー方のが随分威勢がいいじゃねぇか。ただの浅霧のファンじゃないってか」
「小さいゆーな! ……っ俺は『間崎』だ! 誰が薺のファンになんかなるかよ!」
と、途端。
「間崎?」と復唱した鞍眞が、再びにんまりと唇に孤を描き、結斗をまじまじと見つめだした。
「へぇぇ、お前が。浅霧なんかよりよっぽどおもしれぇじゃねーか」
『間崎』の名は、鞍眞が結斗に興味を持つに十分な名だったらしい。
鳩は舌打ちしたい気分になった。
更に笑みを増す鞍眞の纏う空気が――導力が、怪しく揺らぎ始めたのを感じたからだ。
彼は確実に、その身に宿す炎を解き放とうとしている、と。
「テメェら『間崎』の奴とはずっと一戦交えてみてぇと思ってたんだ。俺様権限で不問にしてやっから、能力全開で来いよ」
「おまえなんかに能力を使う必要なんかねーよ! 一発殴って終わりだ!」
――一応、今の結斗にも能力の使用を自制する心はあるようだが、一発は殴らないと気が済まないらしい。
鞍眞へと殴りかかった結斗を鞍眞が後ろへ跳躍することで避け、結斗がその後を追いかけ出す。
鳩は慌てて結斗を呼び止めた。
「結!」
「鞍眞!」
と、鳳城が鞍眞を呼ぶ声と重なり、思わず隣を見やった。