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「僕は鳳城冬夜。生徒会執行部の副会長だ」
鳳城冬夜、と名乗った生徒は、にこりと人好きのする優しい微笑みを浮かべているのだが、鳩はどうしても警戒を解くことはできなかった。
『鳳城』。その一族もまた王冠である。
この学園に来てから初めて目にする王冠の者はこれで四人目だ。まだ会っていないのは『叉木坂』のみとなる訳だけが、立て続けに現れる彼等は皆一様に美形で――どこか厄介そうな空気を漂わせた者ばかりだった。
そのため。
王冠の者に会うと、どうにも碌なことが起きない気がして仕方がなかったのである。
「十埜の件なら気にしなくていい。わざわざ詫びに来てもらわなくて結構だ」
どうやら薺は鳳城がここへ来た目的をわかっているらしい。
カタンと箸を置き、そう言って鳳城を見返す薺の『詫び』と言う言葉に、ようやく鳩も状況を察した。
「そう言ってもらえると助かるよ。――けれど鳳城にも体面がある。十埜の不始末は監督者である鳳城の責任だ。謝罪は述べさせて欲しい」
すまなかった、とピシッと背筋の伸びた綺麗な一礼をする鳳城に、周囲の生徒達がざわざわとざわめきだす。
『詫び』とはやはり十埜の件のことだったようだが、食堂内にいる生徒はそんな事情など知らぬ者達ばかりだ。
副会長という立場にある鳳城が、王冠とは言え新入生である薺に頭を下げている光景が物珍しいのだろう。
「十埜尚樹――『十埜』には圧力をかけておいた。彼も我が身が大事だろうからね。当分は大人しくしている筈だ」
頭を上げた鳳城が続けて言い終える――や否や、
「めんどくせぇ話は終わったよな」
と、鳳城の後ろで佇んでいた鞍眞が、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら前に進み出た。