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「そう言えば薺さんも今日入寮なんですよね?」

 新入生の入寮は、入学式より三日前から受付が開始されている。
 新入生の諸事情を考慮してだろう、その期間ならいつでも入寮できるようになっているのだ。
 大抵の者が入学式より前に入寮するそうだが、鳩と結斗は当日――今日入寮することにしていた。
 なぜ薺がまだ入寮していないと思ったかと言うと、今朝、正門近くで会っているからである。
 既に入寮している者なら通る必要のないその場所ですれ違ったということは、薺もまた外部からやって来たのだろうと思ったのだ。

「ああ、まぁな」
「じゃあ、まだ誰と同室かとかわからないんですか」
「ああ。おまえ等はどうせ一緒なんだろう?」

 どこか羨んだような言い方が薺を年相応に見せて、鳩は苦笑しつつ頷いた。
 それも『間崎』の計らいだ。
 普通は誰と同室になるのかは学園側が決めることで、よほどの事情がない限り卒業まで変更は利かないため、『誰と同室になるか』は新入生にとって重要なことと言っていい。薺が少し憂鬱そうなのも、彼もまた同室者の存在に懸念を抱いているからだろう。

「あ、よかったら遊びに来てくだ――」
「っばか! 来なくて、もぐ……いいからな! んぐ……つか、来んなっ」

 遊びに来てください、と言おうとした言葉は結斗に遮られた訳だが、慌てた所為か彼は口に食べ物を詰め込んだ状態である。そんな結斗の必死な様子に、鳩は「結、行儀悪いぞ」と言いつつ苦笑した。

 ――と。
 食堂内が急に騒がしくなったのはその時だった。


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