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 鳩達が食堂に着いてからこちらに――いや、結斗と薺に目を向ける者は徐々に増え出していて、既に、ちょっとした騒ぎを引き起こしてしまっている。
 どうやら中には結斗と薺が王冠と知る者もいたらしく、そしてそれは周囲にもあっという間に伝達したようで、皆口々に騒ぐ声が聞こえてきた。

(……懐かしいなこの感じ)

 区画学校でも、最初の頃はこんな感じだった。
 どこへ行ってもまるで見せ物のように注目を浴び騒がれ、自分に対してではないのに鳩はいつまで経っても慣れず、居心地の悪さを感じていたものだ。
 だが、相変わらず結斗はそんな周囲の視線などどこ吹く風で、メニュー票を見ながら真剣に自分の胃袋を満たす料理を選んでいるのだから、尊敬すらしてしまう。

「うう、マジどれもうまそう……ああもう決めらんねーから『スペシャルAセット』だ」

 「大盛っと」と言ってピッと結斗が注文ボタンを押した。
 大盛なのは言わずもがな、彼がその体格に似合わず大食いだからだ。
 続いて薺が和食の定食を選び、鳩は日替わりセットを選択した。
 因みに購入する際の料金は、寮の鍵でもあるカードキーで識別し後で纏めて請求される仕組みになっているらしく、便利である。
 鳩達はほどなくして出来上がった料理を受け取り、窓際のテーブル席に座った。


「――うまっ、このハンバーグマジうめ〜」
「結、こっちの唐揚げもうまいよ。それと交換しよ」

 ひょい、と結斗の皿から付け合わせの人参を奪って唐揚げを変わりに置く。さんきゅ、と口にしてそれを咀嚼した結斗が、また「うま!」と声をあげた。
 さすがは金持ち学校だ。一介の食堂とは思えぬほど、見栄えも味も本格的でおいしいものばかりである。
 向かいでこれまたどこの料亭だと思いたくなるような定食を味わう薺に、鳩は何気なく話題をふった。


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