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「何もないみたいだな。じゃあこれで今日はこれで終わりだ。後は自由にしていい。昼食を取るなら食堂か購買で買うか、だな。――ああ、それから。今日入寮して来たものは寮監から説明があるそうだ。寮棟にいる筈だから部屋に帰る前に声をかけていけよ」

 「じゃ、お疲れさん」と言って教壇を離れる夏帆谷に、数名の可愛らしい感じの生徒が群がり出すのは、やはりその無駄に色気のある男前な顔立ちの所為だろう。

「結、どうする?」

 座席の順番は五十音順で、同じ名字である鳩と結斗の座席は必然的に前後だ。後ろを振り返って鳩は尋ねた。

「んー腹減ったし先に食堂行こうぜ」
「了解」

 結斗は長い説明の間にすっかり普段の調子を取り戻したらしい。
 どこかうきうきとした様子の彼にクスリと苦笑して、ふと「あのさ」と呼びかけた。

「薺さんも誘ってかないか」
「は!? なんで薺なんかをっ」

 やっぱり、露骨に嫌な顔をされてしまった。
 どんな反応が返ってくるのかなどわかりきっていたことだったが、敢えて鳩は口にする。

「せっかく同じクラスになったんだし、仲良くしろよ」

 結斗と薺には、仲良くして欲しいのだ。
 二人とも性格は全然違うが、根本的な部分はよく似ている。けしてわかり合えない者同士だとは思えなかった。

「――だそうだが、どうするんだ?」
「あ、薺さん」

 と、いつの間にか薺が後ろに立っており、話の内容もしっかり聞いていたらしい。
 苦虫をかみ殺したような顔をした結斗が苦渋の末、「ついてきたいなら勝手にしろよっ」と上から目線なセリフを投げかけたのに対し、「ああ、そうさせてもらう」と薺が苦笑混じりに告げたことで、話は纏まったのであった。



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