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ようやく舞い戻った平穏――というにはまだ騒がしいが、一先ず難は去ったようだ。
ほっと安堵の息を漏らした鳩は、ふと視界の端で赤来がニヤニヤしながらこちらを見ているのに気づいてしまった。
目が合ったのがいけなかったのか、赤来は無数のアクセサリーをチャラチャラと鳴らしながら近付いて来る。
「ねぇねぇ、君達『間崎』の子でしょ」
何となく、彼のじろじろと観察するような不躾な視線に不快感を覚えた鳩は、緩みかけていた気を引き締め直し見返した。
「俺ねぇ、赤来未狼って言うんだけど――そっちの子は怯えちゃってんのかな〜」
――と。
『そっちの子』とは間違いなく結斗を指してのことだろう。だがしかし、『怯える』という彼に似つかわしくない単語に疑問を抱き、そう言えば先程から結斗の様子がおかしいことに気がついた。
――たぶん、落ちてくる破片から守ろうとして引き寄せたくらいから。
やけに、大人し過ぎるのだ。
「――結?」
どうしたんだ、と尋ねるように名を呼べば、俯いたままの結斗の肩がふるりと震え、
「…………なん、でもない」
そう、本人の口から返答は返って来たものの。
とてもじゃないが、なんでもない風には見えなかった。
妙な間もあったし声も小さいし――第一、こちらを見ようとしない。
普段とは様子が違う結斗に、鳩はまさか、と懸念を過ぎらせた。
「結、もしかしてどっか怪我したのか?
「……………してねぇ」
「じゃあ、腹痛いとか」
「………痛くねぇし」
「うーんじゃあ、」
体調が悪いのか、と。
熱でもあるのかと思って、結斗と自分の前髪を上げこつん、と額を合わせれば、仄かな熱が伝わってきた。