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 それは周辺の生徒達も同じだ。
 皆一様にあっという間に修繕された教室を見て歓声を上げている。赤来に羨望の眼差しが向かうのは肩書きや能力だけではなく、例によって例の如くその整った顔立ちも要因となっているであろうが。
 だが、ただ一人だけ――十埜だけが不満を隠しきれずわなわなと震えていた。

「………どういうことですか。浅霧に対する罰はっ」
「ああ、勿論処罰は受けさせるぜ。――浅霧。おまえにはAクラスの委員長になって貰う。面倒な役目だ。罰には丁度いいだろ」
「ぶっ! 夏帆谷先生、それ決めんの面倒だからだろ〜。あんたが楽したいだけじゃん」
「赤来は黙ってろー。あ、拒否権はねぇぞ」

 どうやらこの教師の名は、夏帆谷と言うらしい。そしておそらく、このAクラスの担任教師なのだろう。
 罰と言う名目で、誰もが嫌がる役割を薺に押し付けようとしているようだ。
 確かにそれは、受ける本人にとっては後にも続く重い罰である。
 だが、体面的には処罰と言えるものではなく――

「――そんなのっ、納得がいきません! 校則違反をしたのは浅霧も同じでしょう!?」

 案の定、声を荒げて十埜が異議を唱えた。
 夏帆谷が呆れたように嘆息する。

「おまえなぁ……。浅霧とおまえとじゃ、根本的に違うんだよ。んなことも一々言わねぇとわかんねーか?」
「た、確かに器物を破損したのは俺ですが、」
「そんなこと言ってんじゃねーよ。ああもう面倒な奴だな」

 苛立たしげにガリガリと頭を掻いた夏帆谷の、次に十埜に向けた視線は――酷く冷ややかなものだった。

「――十埜尚樹、もう一度言うが謹慎は『今日を含め』三日間だ。期限を延ばされたくなければ、即刻立ち去れ」

 その声音に先程までの緩さはない。
 刃の切っ先を向けるような鋭く尖った空気を纏わせ冷淡に告げる夏帆谷に、気圧された十埜は青ざめて――だがしかし、憎々しげに歯噛みすると足早に教室から出て行った。



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