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――もし薺にも何かしらの厳罰が下るようなら、その時は弁明する。薺に非は一切ないのだから。
そう意を決して言葉を待った鳩だったが、教師の口から放たれたのは処罰ではなかった。
「おまえが『移動』させた物。ちょいと元に戻してくれねーか」
『元に戻す』とは再び教室内を破片や机が散乱する荒果て地に戻す、ということだ。
なぜ、と不思議に思った鳩だったが、視界に映る光景が変貌したのは教師が言い終えるや否やのことだった。どうやら薺はそう指示されることを予測していたらしい。
「じゃ、あとは頼むわ。――赤来」
と、そこで始めて、教師と共にやってきた生徒が動いた。
「うっわ、ぐちゃぐちゃじゃん。面倒くせーんだけど」
「文句言うな。おまえに治させんのが一番早いんだよ。こないだ期限遅れの書類見逃してやっただろ。これでチャラだと思え」
髪は薄い茶色。首や指や腰にいくつもアクセサリーを身につけ、制服もだらしなく着こなしたその生徒は、口調は不服そうなもののニヤニヤと楽しげに惨状を見渡している。
彼と教師の間でなにやらやりとりする声が聞こえてくるが、鳩はそれよりもまじまじと赤来と呼ばれた生徒を見てしまった。
『赤来』――
その名もまた、王冠の誉れを受ける一族であったから。
「あんなんでチャラになるかよ。釣りがいるっつーの。――まぁちゃっちゃと終わらせるか」
生徒――赤来が右手を前に翳した。
すると動画の逆再生でも見ているかのように、割れた窓ガラス、破片の刺さった床や椅子や机が見る見る修復していく。鳩達の頭上にあった蛍光灯も修復されたようで、ぱっと薄暗かった教室に明かりが灯った。
――聞いたことがある。
『赤来』の能力は様々な物質を自在に操り『創造』できる力だと。
「こんなもんかな〜」
腰に両手を当てながら元通りになった教室内を見渡す赤来に、教師が「上等上等」と称賛した。