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――一触即発。
もしこの場に第三者がいたならばそんな風に思っただろう。
結斗から発せられる空気は、今にも手や足が出そうなぴりぴりとしたものだ。
だが薺はというと、ふっと微笑を浮かべただけで結斗を相手にはせず、ただしすれ違い際、「いつまでもそんなガキみたいに騒いでると、愛想つかされるぞ」と言い残し去っていった。
「ぐっ!!」
「やっぱかっこいいなぁ薺さんは。――うっ」
――と。
鳩はまた腹に一発食らった。
あ、これさっきより痛い気がする。
先ほどのリピートのように身を折って呻いた鳩は、結斗に文句を言おうとして――彼が纏う空気が酷く真剣なものに変わったことに気が付き、言葉を呑み込んだ。
鳩を見る、結斗の表情にあるのは怒りではない複雑な感情。
言い表すなら、それは焦燥――そして子供じみた嫉妬、だ。
(薺さんは冗談で言ってるだけなのにな……)
それは結斗の反応が面白いから、という理由が大半だろう。
結斗は素直で、真っ直ぐな性格をしているから何にでも正直な反応を返してしまう。そしてライバル視している(本人は認めないが)薺に対しては特に過敏に。
鳩も鳩で、殴られた仕返しをする意味も込めて薺に乗ってしまったのだが、少し、からかいが過ぎたかも知れない
「――おまえの主は誰だ」
そんなこと決まってる。
「結だよ。結しかいない」
普段の天真爛漫さとは正反対の、薄暗い一面を垣間見せる主を、鳩はまっすぐ見返した。