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「まさかこれで終わりとか思ってないよね? 俺の能力は――これからが本番なんだよ!」
ヒュンヒュンと、風を切るような音が幾つも続く。
それは――散らばったガラスの破片が浮かび上がり、空中を飛ぶ音だ。
十埜が右手を空中に翳し指揮を執るように振れば、破片は彼の周りに集まり、薺へと刃先を向けて整列した。
それが――十埜尚樹の能力であった。
「――念動力、って奴か」
「そうだよ。最も……俺が扱える質量や範囲は、今までの『十埜』とは比べものにならないほどのレベルだけどね」
それが十埜の自信の源なのだろう。
ふふ、と微笑を浮かべ自賛した十埜は、
「だから俺が選定戦に参加すれば『十埜』は必ず王冠に選ばれる」
と、自信満々に告げ――そしてまた結斗を見やった。
「間崎君、君は離れていた方がいい。俺のコントロール力なら君を巻き添えにすることはないが、彼が傷つき伏していく姿を間近で見るのはショックだろうからね」
打って変わって優しげに告げる十埜の目に、果たして結斗はどのように映っているのだろうか。
確実に言えるのは、彼の脳内と現実には大きな差があるということだけだ。
腕を組み目を細めた結斗は、可愛らしさの『か』の字もない口調で言い放った。
「バッカじゃねーの」と。
「おまえなんかに薺がヤれるかよ」
「――な!?」
おそらく十埜には二重の驚きがあったに違いない。
一つは結斗の怯えの欠片もない平然とした態度。そしてもう一つは――その口の悪さ。
結斗を中身を知らない者は大概、性格もその可愛らしい見かけと同じくおしとやかで可憐だと思ってしまうから。実際はそれと正反対だとも知らず。