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結斗も人事だと完全に傍観体勢だったらしく、急に振り向かれて目を丸くしている。
「君もいずれわかるよ。浅霧より俺の方が優秀だってね」
あ、と鳩は気づいた。これは――この目は過去何度か見たことのあるものだ。
結斗に一方的に想いを寄せる、ストーカーさん達のフィルターのかかった目。
この十埜という人物は、薺に対しかなり敵対心を持っているようだが、その理由は首席云々に加えて結斗の存在が大きな割合を占めているらしい。詰まるところ彼は結斗と親し……気に見える薺に嫉妬しているのだ。
――そして。
今にも歩み寄りそうなほど熱の籠もった目で結斗に見つめる十埜に、鳩も傍観に徹している訳にはいかなくなってきた。鳩は結斗の護衛なのだ。彼がこれ以上結斗に近づくようなら、止めなければならない――
「確かに首席は二人だと聞いたがな」
と、そこでようやく薺が口を開いた。
「『十埜』など知らん。王冠の名を冠するほどの能力があるとも思えないな」
「な――っ!」
挑発的に告げる薺に、十埜がカッと頭に血を上らせる。だが寸前のところで理性が働いたようで、彼は嘲るようにふっと息を吐き捨てると、再び口角を歪めた。
「『十埜』の系統能力はSランクだ。王冠選出選には必ず参加を求められる一族なんだよ」
どうだ、と言わんばかりにしたり顔を浮かべる彼はきっと、それを口にすれば驚愕なり興味なり、薺の関心を引けると思ったのだろう。事実、野次馬と化している周辺の生徒の十埜に対する眼差しは、好意的なものに変わり始めていた。