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 郁奈宮学園の校舎は入学式に使われていた建物から少し離れた位置にあり、千人以上もの人数を収容できるだけあって、壮大で複雑な構造となっている。
 結斗あたりは迷いそうだな、と思い口にすれば、「バカにすんな!」とお馴染みの叱責が飛んできたのだが――

「結、どこに行くんだ?」
「ここは左だぜ」

 一人だけ逆方向に向かおうとしている結斗を薺と鳩で呼び止める、ということが度々あり、彼が大人しくなるのにそう時間はかからなかった。ただそれは汐らしくなった、という訳ではなくただムスっとふてくされて静かになった、という意味だが。

 そんなこんなで約一名を除きスムーズに教室へと着けば、中には既に数名の生徒が到着していた。
 当然まだ早い方だったようでその数は少ない。けれどそのお陰で大きな騒ぎになることはなかったようだ。
 薺と結斗が教室へと足を踏み入れれば、視線は一斉に彼等に向いた。入学式の時と同じくキラキラとした羨望の眼差しで。
 もしこの場にたくさんの人がいたならば、薺や結斗と同じクラスになれた喜びの声で、歓声の嵐となっていたに違いなかっただろう。

 ――だが、そんな喜々とした雰囲気はすぐに一人の乱入者によりどよめきに変わった。

「――浅霧薺君はいるかな?」

 待ち構えていたとしか考えられないタイミングでかけられた声に振り返れば、教室の入り口に仁王立ちしている生徒がいた。どうやら今の声はその生徒が発したものらしい。
 態とらしくさらりと黒髪を掻き上げる彼は、育ちのよさそうな優等生然とした風貌の、それなりに整った顔立ちをした生徒だった。


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