37
だが、この約三百人もの新入生相手に二カ所だけとは、どちらもかなりの人集りとなることは間違いないだろう。
既に混雑を予期した生徒が急いてわらわらと集まりだしているそこは、クラス表の上部しか見えない状態になっている。
「結、俺行ってくるし待っとけよ」
結斗の背じゃもみくちゃにされそうだし。という言葉は勿論飲み込んで、鳩は答えも聞かずにクラス表の元へ向かった。
(――せめてもう少しマシな方法なかったのかな……)
クラス表の近くまで来たものの、文字が読める位置まではまだ遠く進みも悪い。
一学年のクラス数はA〜Fの六つ。その中から自分の名を探すのは大変なのだろう、中々人が捌けていかなかった。
密集する人混みの中で居心地の悪さを感じながら待ち続けていると、突然。後ろの方が騒がしくなった。
何かと思って振り返れば、そこには薺が立っていて。
「鳩、行くぞ」
「え?」
急に腕を取られ、状況を掴む間もないまま薺はすたすたと壁に向かって歩き始める。
そこはつい先程までぎっしりと生徒で埋め尽くされていた筈なのに、今は花道のように道ができていた。
理由は……言うまでもないだろう。
「反則過ぎません?」
「厚意なんだ。甘えていいだろう」
詫びれもなくにやりと笑う薺はそれはもう男前で。
鳩は心の中で割り込んでごめんなさい、と誤りながら、ちゃっかりその恩恵に与ることにした。