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 壇上で炎が上がった時、鳩は何らかの襲撃があったのかと身構えた。
 だが、それにしてはどこからも殺気や悪意が感じられない。何より、そう言った気配に敏感である筈の結斗が未だ穏やかに夢の中を漂っている、というのが不思議だった。
 そしてその疑問は直ぐに解消されることとなる。

 炎の中から姿を現したのは、現生徒会長だという鞍眞嵐。『鞍眞』とは王冠指定の一族の一つだ。
 そして彼は『プレゼント』だと言った。
 つまりこの炎は、彼が発動している術で――殺傷力はないもの。一見炎ではあるが、彼の制御により触れたものを燃やすこともなければ、熱さも感じないようになっているらしい。
 今や壇上だけに留まらず、会場内全体に広がっている炎はまるでイルミネーションのようで、害がないとわかるとそれは美しい光景でしかなかった。

 だが、そう呑気に楽しんでいられるのは新入生だけらしい。
 この演出は進行側の者にとっても予想外だったらしく、青ざめた教師達が慌てて、壇上で黄色い歓声を浴び続ける鞍眞に何かを呼びかけている。おそらく、止めるようにだろう。

『――本日の入学式は以上をもちまして終了致しますっ』

 だが全く従う様子のない鞍眞に、教師達も強行手段に出たようだ。
 マイクを通して、唐突な入学式終了の言葉が歓声に負けじと大きな音量で響き渡る。

「ちっ、堅苦しい奴等だな。ま、いいぜ」

 それに不服そうな顔で鞍眞は何やら呟き――

「――在校生一同を代表しててめぇ等を歓迎するぜ。派手に咲きな!」

 どどん、と花火のような火花が数発散って。
 生徒達の歓声が最高潮に達した中――そうして慌ただしく、郁奈宮学園の入学式は幕を閉じたのであった。



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