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(――あ、よだれ垂れてるし)

 ちらりと結斗を見やれば、楽しい夢でもみているのか、その表情はとても幸せそうだった(多分夢の中で美味しいものでも食べているのだろう)。
 だが結斗が目を覚まし、式中の居眠りを薺に失笑されたと知ったらまた機嫌が悪くなるに違いない。
 黙っておこう、と思った鳩だったが、それをネタにからかう薺と猫のように毛を逆立てる結斗の姿が容易に想像できてしまって、ばれるのも時間の問題かと諦めた。
 結斗を見ながらそんな風に苦笑していると、

『在校生による祝の言葉を、現生徒会長である鞍眞君に――』

 いつの間にやら薺は自席へと戻っており、進行は次の題目へと進んでいた――のだが。

『……鞍眞君? 鞍眞君いませんか?』

 教師が戸惑いながら繰り返す言葉に、生徒達の間にどよめきが広がる。
 どうやら挨拶する筈だった『鞍眞』という人の姿が見当たらないらしい。

 ――と、突如。
 壇上に置かれていた机が――炎上した。
 まるで爆発したかのように突然にだ。
 そしてそれは、緋色の炎を激しく揺らめかせながら、ごうごうと音をたてて燃え盛る――

 本当に何の前兆もない唐突なことだった。
 最初は誰もが皆、驚愕し目を疑っただろう。
 だがそれが火災であると認識し始めた生徒達の間に、恐怖の悲鳴が広がりかけたその時、

「――生徒会長鞍眞嵐様からの『プレゼント』だ。とくと味わいな!」

 そう高らかに言い放ち、燃え盛る炎の中から現れた――鞍眞嵐の姿に、悲鳴が黄色い歓声となって、会場内は再び喧騒に包まれた。



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