33

 会場内は広い。それに鳩達のいる位置は端よりの末席に近い場所だ。
 数百人もの生徒が整列するこの中で壇上にいる人物と目が合うとは思い難いのだが、薺の視線は確かに鳩に向いていた。
 ――否。
 薺と鳩の目が合ったことは確かだが、彼が本当に見ていたのは――結斗だろう。
 なぜなら薺は、鳩達を捉えたその後、ふっと表情を綻ばせたから。
 どこか楽しそうに、それなりに見慣れている鳩でさえ、ドキリとしてしまう笑みで。

 当然会場内は湧いた。それはもう激しく。男しかいない筈なのに『きゃぁぁぁ』と甲高い歓声が至るところから発生するほど。
 どこからともなく、微笑まれたのは自分だと言い合う声も聞こえてくる中、ただ鳩は苦笑を浮かべるしかなかった。

 ――なぜ薺がこちらを見て微笑んだのか。彼の性格からして、知り合いを見つけたからという理由ではないだろう。
 思い当たることはたった一つ。
 結斗が式中に居眠りをしていること。それだけだ。
 薺の登場で騒がしくなったのにも関わらず一度も目を覚まさなかった結斗に対し、薺はきっと、失笑したのだとしか考えられなかった。


<< >>
maintop


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -