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幼い頃から、その身を鍛えてきたのは鳩も同じだ。残念ながら鳩には、結斗や薺のような才はなかったが、それでも最大限補佐を勤められるように努力はしてきた。
結斗は――鳩を守ると言った。
それは冗談でもなく、そして偽りでもないだろう。彼にはそれを成せるだけの力がある。
だが鳩は、結斗を守りたい。足手まといになるのではなく、守る側の立場でありたいと強く想う。
結斗を守ること。それは、鳩の存在理由でもあったから。
(今の俺じゃ、『守る』なんて言えないけどな……)
鳩は僅かに自嘲染みた笑みを浮かべた。
自分にできることなど高が知れている。
だからきっと彼は鳩の手など借りなくても、嵐の中を駆け抜けていってしまうだろう。
――それでも。
差し出した手を取って欲しいと、並んで走りたいと願ってしまうのは、過ぎた願いだとわかっていても思わずにはいられないことだった。
――と。
不意に会場内が盛大な拍手に包まれた。
確か今は、郁奈宮学園理事長による祝辞が読み上げられていたところだった筈だ。拍手が上がったということは全て読み終ったのだろう。
理事長――現在の『総代』は『叉木坂』である。
だから理事長による祝辞、というと叉木坂の現当主が登場している――筈だったのだが、何でも体調不良だそうでこの場には姿を現さず、代弁という形で述べられていた。