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『虹色の泉』にある『導力』は常人の何億倍――計り知れない量だ。そしてその地は、日々世界に拡散して行く量を補うかのように『導力』を生み出し続ける。
――否。補う以上に、だった。
『導力』が生み出されなくなれば人々は魔導という力を失い変革を強いられることになるが、だかしかし増え続けることもまた、世界の均衡を崩すことになる。
だからこそ『虹色の泉』は常に安定を図る必要があった。
そこで発案されたのがこの『郁奈宮学園』である。
何百人という人間を一角に収容し――それも循環率の高い成長期の子供ばかりを集める。そうすることで、生まれ続ける『導力』は集中的に消費され均衡は保たれると。
そしてその案が奏功したからこそ、こうして何百年もの間『虹色の泉』は守られ絶えることなく『導力』も生み出され続けていた。
ゆえに郁奈宮学園は特別な地である。
そのため、その管理体制には幾つかの取り決めがあった。
まず、学園の管理は王冠指定の一族全てで行うこと。学園の運営者は各王冠一族から均等に選出された者達で構成されており、一つの一族に権力が偏ることがないようになっていた。
それから要である代表者――理事長の座には、十年毎に各王冠の当主から選出すること。
またその選出は――『王冠選定戦』にて決すること。
一族の代表者戦とも言えるその場で、勝利を手にした一族の当主に学園理事長となる権利が与えられていた。
『王冠選定戦』――
そしてそれは今や、学園理事長を決めるだけの戦いに留まっていない。
勝者の一族に与えられるのは王冠の『総代』の座だ。
『王冠選定戦』は、ありとあらゆる領主間の政において最高権威を持つ立場を決める催しとなっていた。