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「王冠相手のトラブルはややこしいことになるんだ。軽はずみな言動は控えなよ」
――王冠同士の恋愛沙汰は御法度に近い。
この学園にいる王冠の人間は皆それぞれの一族内で重要な位置にいる者ばかりだ。たとえ一学生、個々の付き合いと言えど、そこには必ず家がつきまとう。
確執の元となり易い関係を禁じるのは当然のことだった。
そしてこの学園内で問題が起きた場合、それは生徒会会長の鞍眞や副会長である自分の責任問題になる。そんな面倒を起こされたくはないため、冬夜はわざわざ釘を刺した。
「大丈夫大丈夫! 俺がそんなヘマするわけないじゃん! 楽しく後腐れなく遊ばせてもらうだけだって〜」
だが、彼は忠告を聞く気はまったくないらしい。
冬夜は嘆息と共に再び一言物申そうと「君は――」と言いかけ、「げ!!」という赤来の声に言葉を遮られた。
「『夕月』からはやっぱあいつかよ……」
どうやら王冠の一つ、『夕月』の新入生とは顔見知りのようだ。それも好まない相手らしく、赤来は「マジ最悪〜」と窓辺にもたれ掛かり嘆いている。
そんな彼の様子に勢いを削がれてしまった冬夜は、言おうとしていた言葉を飲み込んで窓辺から離れた。
そして、心の中で思う。
これでこの学園に揃った家名を背負う王冠は七人。現在この国を治める七つの王冠指定の一族を代表する全ての人間が揃ったことになる。
この学園に各王冠の直系が揃うのは十年ぶりのこと。
そしてそれは偏に、半年後に開催される『王冠選定戦』のために集められた者達で……。
――と。
「いよいよ来たかって感じだよね〜」
冬夜の内心を読んだかのように、振り向いた赤来がにやりと笑う。
「――ああ、そうだね」
そして冬夜もまた、忘れることのない胸に秘めた望みをそっと反芻して、うっそりと笑った。