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急に割り込んできた邪魔者である鳩を見て、夕月は目を眇める。それからどこか納得したようにふうん、と声を漏らした。
「なるほど、君は結斗の番犬なんだ」
「番犬……番鳥ではありますね」
「は? ちょう……?」
だって鳩だから、と鳩は内心答えつつ、夕月の視界に結斗が入らぬよう隠す。
――否、逆だ。正しくは結斗の視界に夕月が入らぬように、である。
そもそも鳩は結斗を守るためではなく、結斗の夕月に対する苛立ちが限界に達したのがわかったから――彼が暴れ出す一歩手前であることに気づいたから仲裁に入ったのだ。
入学式早々、いきなりもめ事を起こされてはお目付役の意味も持つ鳩の立つ瀬がない。そう思って。
だがこうして間に立つと結斗がキレそうになっていた気持ちが良くわかる。じろじろとこちらを見てくる夕月の視線は、なんだか粘っこくて気持ちが悪い。今すぐにでも回れ右をしてこの場から立ち去りたい気持ちになった。
――と。
「……鳩。そんな変な奴ほっといていくぞ」
「――了解」
鳩の仲裁は功を奏したらしい。
沸騰しかけていた熱は冷めたのか、小さな嘆息の後、結斗が静かな声でそう告げる。
そしてくるりと身を翻し歩き始めた彼に、鳩は一も二もなく従った。
その間夕月はというと、予想に反して何も言ってくることはなかった。
無視したくらいでかわせると思っていなかったのだが、彼はただにこやかな笑みを浮かべて、離れ行く鳩と結斗を見ているだけだった。