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声をかけてきたのは見知らぬ、これまた美形の生徒だ。
毛先までしっかり手入れしていますと言わんばかりの光沢を放つ艶やかな金色の長髪を風に靡かせた、童話の中の王子様を彷彿とさせる男。
そんな彼は結斗に対し、にこりと微笑んだ。
「はじめまして。僕は夕月遥。同じ学園の新入生同士仲良くしよう」
それは初めて会う者に対する何げない挨拶のように思える。だがしかし、鳩と結斗はその言葉にはっと気を引き締めた。
夕月――それは王冠指定の一族の内の一つだ。
そしてわざわざ、間崎の次期当主候補である結斗に話しかけてきたと言うことは、彼もまた、夕月の名を背負って立つ立場にあるのだろう。
「ご丁寧にどうも。間崎結斗は俺だけど、何の用だよ」
「そんなに警戒しないで欲しいな。僕はただ――」
と、突然。
「結斗に興味があっただけだよ」
夕月は馴れ馴れしくも『結斗』と名を呼び、すいっと結斗の眼前に進みでて、そして――
「ああ、やっぱり聞いていた通り可愛らしい。君、僕のものにならないかい?」
「は!?」
まじまじと結斗の顔を見つめ、いきなり突拍子もないことを言い出した。
結斗は驚きの声をあげ、鳩も目を瞬かせる。
そんな鳩達を余所に、夕月は更に自信満々に続けた。