SS/まだ会えない
2012/02/07 10:54

*+*+*+*+*

 集中管理室のメインディスプレイに向かいパネルを操作していたクダリの耳に、傍らに置いていたインカムから業務連絡の着信音が届く。
 慌てて耳に付け、スイッチを入れる。
「ボクだよ!」
『ボス。残念ながら、チャレンジャーは下車されました。』
 期待していたものと正反対の報告に、クダリは周囲に隠すことなく落胆した。
「了解、ご苦労様」
 そう言いながら大きくため息をつく。
 インカムのスイッチを切り、デスクパネル上にポイッと放り投げた。
「今回も負けちゃったのか……」
 不服とばかりに唇をとがらせ呟く。
思いつくまま、パネルに指を滑らせた。監視カメラを呼び出して、小さなウィンドウをディスプレイに出す。
いくつか切り替えると、映し出されたのはスーパーダブルトレインのライモン駅ホーム。そして、お目当ての顔。
「トウヤ。」
 不機嫌そうに下がった口元から、その名がこぼれ落ちた。
 ズームにして切り取る。トウヤはホームで駅員と話し込んでいるようだった。
 カメラのアングルを変えると、駅員の制帽から濃い金色の髪がこぼれていることが解る。
 ジャッキー……!
 トウヤと話す部下の姿に、クダリは思わず舌打ちした。
 ふたりが何をしゃべっているのかはわからない。だが、ジャッキーは晴れやかな笑顔、対するトウヤも笑みを浮かべていて、楽しげだ。
「ずるい……」
 トウヤと戦っていたのは多分ジャッキーだろう。報告してきたのもそうだったから。
 ぱさり。乾いた音を立てて、書類の束がパネルの上に置かれた。
「サインをいただけますか、クダリ」
 ゆるく頭をもたげて振り返れば、自分と同じ顔。
「ああ、ノボリ」
「どうしました?」
 ノボリは眉間にしわを寄せ、クダリの隣に立つ。クダリが見ていたであろうでディスプレイに目をやり、すみに小さなウィンドウが開かれていることに気づく。
「おや、トウヤ様。」
 そこに映し出されていた人を見て、口角がわずかに上がる。
「なるほど……そういうことですか。」
 書類に目を通し始めたクダリの肩に手を置いて。
「今回も残念でしたね。しかし、着々と連勝数を伸ばしているようですよ。」
「知ってる」
 言うノボリに、懐から万年筆を取り出しつつ、クダリはため息と共に吐き出した。
 近頃、ノボリは特にご機嫌だ。
「何度負けても、トウヤ様は貴方に辿り着くまで諦めないでしょう。」
既にノボリはスーパーシングルトレインで何度かトウヤと戦っていた。勝敗関係なく、一戦終わる度に興奮した様子でそのバトルを熱く熱く語るのだ。
「そうだね、あきらめて欲しくないよ」
 その話を聞くたびに、クダリの心は武者震い以上に酷く高鳴ったが、聞き終わると後からモヤモヤとした薄暗い黒い何かで覆い尽くされるような気分に陥るのだ。
 その気分の正体は「嫉妬」だ、と。クダリは気づいている。
「楽しみですね」
「うん、すっごく!」
 自分とはまだ会えない。
トウヤを想うと、胸がしめつけられるように痛んだ。
 最初のうちは「トウヤがボクに会うために頑張ってくれている、それってボクのコトを考えてくれてるってコト。すごく嬉しい、だからバトルするのが長引いても良い、ずっとボクのコトを想ってくれるでしょ?」と、ノボリに笑って話していた。
 だが。今はどうだろう。
 ノボリが先にトウヤと邂逅し、変わってしまった。
 生き生きとしていて、あらゆるものに対して余裕があるような感じ。
「ダブルだけでなく、シングルにもご乗車いただきたいものです。」
 ああほら! このトウヤを見る目! 何だかすっごくイライラする!
 自分とノボリはトウヤを取り合っているが、そのことすら大きく先を越されたような感覚なのだ。
「たださあ、単に待つだけの身は辛いってゆーか。」
 苛立ちをぶつけるように、がりがりと書面をひっかくようにしてサインをしていく。
 多分、ノボリはボクの顔を見て笑ってるんだ。
「ノボリもこんな気持ちだった?」
「ええ。」
 ボクをイライラしながら見てた? 嫉妬してた? 抱きついたりするの見てさ!
そう思った次の瞬間、口角が跳ねあがった。
「早く、早くと、急いてしょうがありませんでしたね。」
 わたくしのところへ。そうノボリの口元が動くのを、クダリは見た。
「ふぅん」
 サインを終えた書類を差し出すと、ノボリはクダリにしか解らない程度に笑って見せる。
「お互い様、です。」
「でも、イーブンだと思ったら大間違いだよ」
 やはり、自分たちは双子だ。

『笑い方が暗いんだよ!』
『笑い方が暗いですね。』

 何から何まで言葉を変えただけで『そっくり』だ。

「トウヤ、早く会いにきて!」



+*+
お粗末!



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