SS/続かないよ!
2012/02/06 21:29
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可愛いくてちょっぴりサイケな見た目に釣られて、ついつい5つも買ってしまった。
一人で食べるには多い量だが、二人ならどうだろう。
否、やっぱし多いか。
数量限定発売だというユニランを模した形に、メロンソーダ味のクリームと白あんが入った緑色のあんまん。その名も「ユニまん」は蒸したてで、湯気がほこほこ立っている。
袋をあけてのぞきこめば。わずかに甘い、お酒のようなあんまんの皮独特の匂いが鼻をくすぐった。
僕の本日の予定はひとつ。
お昼から夜までお休みのクダリさんちでデート。
このユニまんは手土産だ。
クダリさんのマンションは、コンビニからさして遠くないところにある。
「こんにちはー」
『トウヤ! 今行く!』
チャイムを鳴らすとすぐにクダリさんが出た。
次いで、どどどどどっ! と凄い足音。
マンションの下の階の人に怒られないだろーか。
がちゃ!
「すっごい待った!」
「うあ!」
手を思いっきり引っ張られて、勢いよくクダリさんの胸に飛び込んだ。
ばたん! と、大きな音を立ててドアが閉まる。
音の大きさに驚いてひゅっと身をちぢこませたのも束の間。
ひどく強く抱きしめられて「ごぇっ」と、ガマガルが尻尾を踏まれたときのような、我ながら変な声が出た。
掴まれていない手は袋をぶら下げていた方。不自由な腕をやっとの思いで持ち上げ、背中に回してタップすると、ビニール袋はクダリさんの背中に当たってガサガサ音を立てた。
「ちょ、苦しい……」
「すごく冷えてる」
耳元でそう言われて、ぞわりと背筋があわ立つ。
「はやくあったまろ!」
身体が離れたと思ったら両手をぐいぐい引っ張るものだから、僕はあわててかかとを踏んで靴を脱ぎ捨てた。
「おおおおおじゃまします!」
最低限の礼儀、と。引っ張られながら半ば叫ぶように言う僕。
「次からは『只今』って言ってね」
ぱっと振り返ったクダリさんの口元が楽しげに持ち上がる。
「その方が胸熱だから!」
「む、むねあつ……? あ!」
クダリさん越しに見えたリビングには、いつものダイニングテーブルが無かった。
「えへへー! わかった? わかった?
コタツ買ったの! 良いでしょー!」
「コタツ、は良いんですけど。」
僕の後ろへとまわりこみ、肩を抱き頭の上に顎をのせ、心底楽しそうな声を上げるクダリさん。
「フローリングにコタツ……って。
けっこう、ミスマッチですよね?」
「カーペットの上だよ! さあさあ、入って入って!」
僕の肩を押して、コタツの前に座らせると、クダリさんはキッチンへと足を運ぶ。
「お茶はグリーンティね! あ、グリーンティ、嫌い?」
「好きです」
あ、しまった、ユニまん渡しそびれた。
「オレンジ、じゃなくてミカンもあるよ! ミカン、好き?」
ごろごろと何かを転がす音が聞こえてくる。
多分、ミカンを器に移し替えているのだろう。
コタツに足を入れる、ほかほか暖かい。
「好きですよー」
おお、あったかい……。
あ、足になんか当たった。もちょもちょしてる。
……バチュル!? 違う! バチュルクッションだ!
「ボクのことは?」
ミカンがこんもりと盛られた木の器と、お茶の支度がしてあるお盆を持って、向かい側に座るクダリさん。
「好き……って……!」
ああああああぶないところだった!
勢いよく口を覆うと、肌と手がぶつかり合ってぱちんと音が鳴った。
「何言わせよーとしてるんですか!」
じっとり訝しげな目線を送れば。
「愛の告白!」
クダリさんはさらっと答えた。
「恥ずかしくなるとあったかくなるでしょ?」
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「一発ヤろ!」
「やりません!」
お粗末!
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