浴槽にいくつものビー玉が
奏でる様に敷き詰められて行く。
その中にお湯を張ると底に沈んだ
ビー玉が拡がる波紋に合わせて
キラキラと反射する。
遠目からだとまるで宝石が沈んで
いるのでは無いかと見まごう程に、
その光景は酷く美しかった。
(そんなはずが無いのにな…)
見惚れながらぼんやりと思考を
巡らせている所に目の前の立案者
より声をかけられる。
「どう?綺麗っしょ?」
細められた優しい目元が自分に向けられる。
「おいで、真ちゃん」
そう、伸ばされた手を取り浴槽まで導かれる。
近くで見たその光景はどんなに
煌めいていようと、やはりビー玉の
輝きでしかなかった。
(こんなにも美しいと思うのに、興が冷めていく…)
どんなに輝きを放っても所詮は紛いもの。
近付けば直ぐに見破られてしまうのだ。
だから、この距離でいい。
輝きを感じられる、この距離が心地よいのだ。
バスタブの中の恋
(それでもどうか、この手の中にあるモノは
本物であってほしいと柄にもなく、願った)