暦は9月も半ばだというのに
日本の夏特有の湿気に包まれ、
空には積乱雲が立ち上がっている。
それでも吹き抜けてくる風は
涼しさを含まれていた。
上がる息を落ち着かせながら、
肩から掛けたタオルで汗を拭う。
ふんわりとした肌触りで気持ちがいい。
桃色の髪が明るい彼女が用意してくれたもの。
我らバスケットボール部の有能なマネージャー。
キャプテンからの信頼も厚く、
誰にでも屈託ない笑顔を向ける
ものだから人気だって高い。
そんな、彼の幼馴染。
「はい、きーちゃんの」
そう手渡されたスポーツドリンクを受け取り、
お礼を言って外の木陰まで足を伸ばした。
含ませる程度の量を喉に流し、一息つく。
木の葉が擦れ合う音が心地よく瞼を閉じる。
空に耳を傾けた所で、足下から声がかかった。
「おい、ソレ俺にも一口くれよ」
聞き覚えのある声に目を向けると、仰向けになって
寝転がっている有能なマネージャーの幼馴染。
「嫌ッスよ、あんたにやると全部飲むだろ」
桃っちにもらってくればいい、と
言っても面倒くせぇからお前の寄越せと、
ジャイアニズム大発揮である。
本当に困った人だ。
憧れと尊敬の念を抱いていた
あの時の気持ちは何処えやら…
(いや、今でも充分憧れているんスけどね…)
なんだか悔しい気持ちが込み上げていたので、
残り少なくなっていたボトルの中身を
彼に見せつける様に飲み干してやった。
「…っプハ!
残念っスね、あんたにやれる分は無ーっスわ!」
虚を突かれたからしく、
見開かれた目が向けられる。
普段1on1では勝てないので、
こういう所で1本とっておかないとっスよね!
してやったり顔を、していたいられたのも束の間。
強引に引き寄せられたかと思うと
触れた先から彼の舌が介入してくる。
「…っ、ん……っく…ぅ」
執拗に絡められ息をするのもままならなくなり、
離れようとするもそれを許してくれる程、
甘い性格はしていないらしい。
「ちょ…っ、やめ…、っあ、お…みね…っち…っ」
「うっせーよ、ちょっと黙っとけって」
抵抗虚しく、その手は背中へと回される。
離された頃には立ち上がる事も
出来ずにその場にへたり込こむ。
「黄瀬の癖に生意気なことしてんじゃねーよ!」
さつきに飲みもん貰ってくるわ、
と背を向け歩き出す。
「あ、お前はその顔直してから来いよ。」
蒸気した頬を隠す様に手で顔を覆う。
ずるい。
彼はずるい。
そう思えども強い夏の日差しに
当てられる俺には、蕩ける事しか
出来なかった。
太陽に蕩ける
(陽射しは暑い。火照りはまだ抜けない。)